リウィウスを読もう!

ティトゥス・リウィウスの「ローマ建国以来の歴史」、
完全日本語訳がまだされていないこの史料を読もうという試みです。
自己中心的なことに、スタートは21巻からです。いつになることやら分からないけれど、エンドは30巻です。
要するに、第二次ポエニ戦争限定です。

*はじめてお越しの方は、「はじめに」をご覧ください。
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22-13
ハンニバル、サムニウム地方に入る。
カンパニア人騎士がカプア攻略の可能性を進言するが、ハンニバルはひとまず保留にする。
カシヌムへ向かおうとするが、発音を取り違えられて、カシリヌムへ。
マハルバル、ファレルニア一帯を略奪する。
 ハンニバルはヒルピニ領(*1)からサムニウム地方に入った。ベネウェントゥム(*2)一帯を荒らしまわり、テレシア(*3)の町を占領。ローマの盟邦に加えられる屈辱と災難を立て続けに目の当りにすればファビウスとて苛立つだろうと、ハンニバルは期していた。さらに可能であれば、苛立ったファビウスを戦の場に引きずり出してやろうと。
 
 ハンニバルがトランジメーノで捕虜にしたイタリア人の中に、カンパニアの由緒正しい家系に属す三人の騎士がいた。三人はすぐ解放されていたが、その後もハンニバルから離反の打診を受けていた。この三人がハンニバルのところにある提言をもってきたのだ。
 「今ならカプア(*4)を占領できそうです。この機にサムニウム地方を出て、カンパニア地方に進むがよいかと思われますが」
 ハンニバルはためらった。この言葉を信じるべきか、信じざるべきか。カプアを攻めるとなれば容易なことではないのだ。ともかくこの知らせをもたらした三騎士はいったん帰らせた。その際、仲間を連れてハンニバル軍の軍門に下るように再三打診はしておいた。
 「今度ここへ来るときは同朋を率いてやってこい。お前たちと同じように上層部にあるものだと尚いいのだがな」
 
 ハンニバル自身は、案内人を立ててカシヌム(*5)へと向かった。この地に精通したものがハンニバルに進言してきたのだ。
 「ローマ軍が友邦を救援しに向かう道があります。ここを占拠すればローマ軍の通行を阻止できましょう」
 ところでハンニバルの発音するラテン地名には多分にカルタゴ語訛りが含まれており、正確に発音することができなかった。このため、行く先を聞いた案内人はハンニバルのいわんとするところの『カシヌム』を、『カシリヌム』(*6)と取り違えてしまった。一行はカシヌムへの道から逸れ、アッリファエ(*7)、カラティア(*8)、カレス(*9)を通り、ステッラ(*10)の平原に出た。その地は、四方を山と川に挟まれた地だった。
 ハンニバルは案内人を呼び寄せて問い詰めた。
 「案内人よ、ここはいったいどこだ?」
 「将軍がおっしゃったとおりの場所です。今日中にはカシリヌムへ着きますよ」
 ここに至ってようやく間違いに気づいた。目的地カシヌムは、ここからははるかに遠く、方向違いだった。
 二度とこういった間違いが起きぬよう、他のものへの見せしめのため、この案内人は打撲刑に処された。
 
 この地に宿営地を打ち立てると、ハンニバルはマハルバル(*11)を呼び、騎兵を率いてファレルニア(*12)一帯を略奪してくるように命じた。マハルバルはシヌエッサ(*13)の水域までも荒らしまわったため、ヌミディア騎兵の荒らした領域はかなり広範囲にわたったが、その悪名はさらに遠くまで音に聞こえた。だが、全土を包む戦争への恐れも、友邦の絆を揺るがすには至らなかった。友邦に対するローマの姿勢は公平で平等なものであり、友邦は自発的にローマの傘下にあった。その絆はひとえに、信義の名の下に結ばれていたのだ。

 (*1)Hirpini。サムニウム人の一派。 サムニウム地方全体では南のほうに位置し、彼らの言語で『狼』を意味する名前。
 
 (*2)Beneventum。ヒルピニ人の町。昔はMaleventumuといったけれど、ここで起こったピュロス王との戦いに勝利したために、改名したそうです。

 (*3)Telesia。サムニウム地方の一都市で、ベネウェントゥムの近く。

 (*4)Capua。カンパニア地方最重要都市。22-01参照。
 
 (*5)Casinum。ラティウム地方の町。ラティーナ街道沿いにある。
 
 (*6)Casilinum。カンパニア地方の町。アッピア街道沿いにある。町の両側をウォルトゥルヌス川が流れている。カプアからも結構近い。
 
 (*7)Allifae。サムニウム地方の町。ヌミキア街道沿い。大杯が主な名産品。
 
 (*8)Calatia。カンパニアとサムニウム両方に同名の町があるようで……ちょっと保留。
 
 (*9)Cales。カンパニア地方にある町。ラティーナ街道沿い。ファレルノワインの一大市場。
 
 (*10)Stella。
 
 (*11)Maharbal。ハンニバル軍幕僚の一人。これまでもいろいろ活躍。
 
 (*12)Falernian。カンパニア地方の一部。高級ワインで有名。こんなところを荒らしまわったらハンニバル軍は毎日酒盛りできそうですが、カルタゴのならわしで従軍中は基本的に禁酒だったそうです。どこまで厳密に守られていたのかは疑問ですが。

 (*13)Sinuessa。ラティウム地方の町。アッピア街道沿い。ワインが有名。
| livy | 22巻 | 20:31 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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