リウィウスを読もう!

ティトゥス・リウィウスの「ローマ建国以来の歴史」、
完全日本語訳がまだされていないこの史料を読もうという試みです。
自己中心的なことに、スタートは21巻からです。いつになることやら分からないけれど、エンドは30巻です。
要するに、第二次ポエニ戦争限定です。

*はじめてお越しの方は、「はじめに」をご覧ください。
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22-09
ハンニバル軍、数日間の休止。
アプーリアまで進軍し、行く手を略奪しまくる。
執政官セルウィリウス、ローマに帰還する。
独裁官ファビウス、フラミニウスの失態をその不敬によるものとし、神への償いを取り決める。
 ハンニバルはウンブリアをまっすぐに縦断し、スポレトゥム(*1)までやってきた。あたりを完全に略奪しつくした後、この町の攻略に取り掛かることにした。だが町の抵抗は頑健で、ハンニバル側も多数の損失を蒙った。
 たかが一植民市でこれほど梃子摺るのであれば、ローマそのものを攻めるときの困難さもおのずと知れようというもの。軍勢はその進路をピケヌム(*2)へと変える。この地は豊かな穀倉地帯で、貪欲な略奪者を満足せしめるだけの富を誇っていた。
 ハンニバルはここで数日間の宿営を決めた。ここに至るまでの道のりは、冬場の行軍、抜け出すのもままならない湿地、そして敵との会戦。戦いは結果的には大勝利に終わり、犠牲者も多くはなかったものの、兵士の疲労がそれで軽減するわけではない。この地での数日間の宿営は、疲弊しきった兵士たちの回復を目的としたものだった。
 ところがこの兵士たちは休息期間では退屈さもてあまし、それよりも思うが侭に略奪をしたがった。そこでハンニバルは陣を畳んで進軍し、プレトゥティア(*3)・ハドリア(*4)を略奪した。ここから更にマルシ族(*5)、マッルチーニ(*6)族、ペリニ(*7)族の領土および隣接するアプーリア地方(*8)を恣にしていた。アプーリア地方では、アルピ(*9)とルケリア(*10)の一帯がハンニバル軍による略奪の憂き目を見た。
 
 執政官グナエウス・セルウィリウス(*11)はガリア人を相手に小規模な戦闘を行い、とある村を制圧していた。そこでセルウィリウスは同僚フラミニウス軍の敗北を知ったのだ。いまやローマに危機が迫っていることを知り、首都に向けて急行した。そのおかげでセルウィリウスは国家の最大の危難に首都を留守にしていることにはならずにすんだ。
 
 クイントゥス・ファビウス・マクシムスは、二度目の独裁官職についたことになった。独裁官としての第1日目、ファビウスはまず元老院議会を召集し、祭祀にまつわる事項を協議した。ここでファビウスが強調したのは、執政官ガイウス・フラミニウスの失態はかの指揮能力および無謀さにはあらず、むしろ前兆を軽視したその不敬にあるということだった(*12)。居並ぶ元老院議員もこの主張を容れた。
 この不敬に対する神の怒りをなだめるための対策として、シビュラの書にあたることが決められた。こういった措置は、何か特別な事象が起こらない限りめったにとられない(*13)。この予言書を調べたところ、軍神マルスへの誓いを新たにし、ユピテル神に捧げる競技会を行い、エリュキナのビーナス女神(*14)とメンス女神(*15)に神殿を献納するべし、という結果が出た。また、戦いがローマに有利となり、国家が今あるその姿のままでこの後も続いていくのであれば、特別な祭事を執り行い、「春の供儀」が公約された。
 もっとも、ファビウスは前線に赴いて戦闘の指揮を執らねばならないため、ここで定められた諸事の履行に関しては法務官マルクス・アエミリウス(*16)が神官団の監督の下しかるべき時に替わって執り行うことになった。

 (*1)Spoletum。現在のスポレート。

 (*2)Picenum。アドリア海沿岸地方。ウンブリアからは南東の方面に当たる。肥沃な土壌で知られ、リンゴの産地。21-62参照。

 (*3)Pretutia、もしくは、Praetutia

 (*4)Hadria。沿岸にある町。シラクサからの逃亡者が建てたらしい……? もう一つ現在のベネティアあたりに同名の町あり。

 (*5)Marsi。

 (*6)Marrucini。

 (*7)Peligni。いずれもこの一帯に居住するイタリア人。主にサビーニ人系。

 (*8)Apuria。今後数年、ハンニバルの根拠地となる一帯。アドリア海に面した地方で、土壌は肥沃。

 (*9)Arpi。アプーリア地方の中心都市。

 (*10)Luceria。なぜかハンニバルと町の娼婦の恋物語が生まれて、帝政時代には「ハンニバル・愛の家」なる観光名所まであったそうです。アッピアヌスはこのルカニアとしているけれど、大プリニウスではサラピアになってるんですが……。

 (*11)もう一人の執政官フラミニウスは戦死し、セルウィリウスの部下ケンテニウスも戦死を遂げたけれど、セルウィリウス自身は無事でした。

 (*12)このファビウスの主張は興味深いなあと思います。敗北の要因を神に対する不敬にすることで、「神様をきちんと敬えば、次は勝てる」という意識を市民に根付かせたんでしょう。大敗北を喫したローマにとってまず必要なのは、次の戦いへの希望を目覚めさせることなのでしょうから。

 (*13)「めったにない」とか言いつつ、21-62にも出てくるんですが。

 (*14)Venus Erycina。シチリアから入ってきた新しい信仰。

 (*15)Mens。「叡智」を人格化した女神。このとき、カピトリーノに神殿が作られたらしい。

 (*16)Marcus Aemilius。21-49で、218年にシチリア・リリュバエウム防衛線を指揮した法務官がと同じ人のようです。ですが前年に法務官を務めているため、ここでの経歴は正しくは「準法務官」(pro-praetor。「前法務官」と訳されていますが、自分なりに考えた結果「準」法務官がしっくりくるような気がしましたので…)に当たるそうです。
| livy | 22巻 | 18:53 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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