リウィウスを読もう!

ティトゥス・リウィウスの「ローマ建国以来の歴史」、
完全日本語訳がまだされていないこの史料を読もうという試みです。
自己中心的なことに、スタートは21巻からです。いつになることやら分からないけれど、エンドは30巻です。
要するに、第二次ポエニ戦争限定です。

*はじめてお越しの方は、「はじめに」をご覧ください。
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22-03
ハンニバル軍、湿地を抜ける。
ハンニバル、執政官フラミニウスの気質を知り、判断力を失わせるためにあたり一帯を略奪する。
フラミニウス、この罠にひっかかって激昂する。
 絶望の沼地は、多くの人馬の命をその懐に飲み込んでいった。多大な犠牲を払い、ついにこの沼地から脱するに至ったハンニバルは、乾いた大地の上に足を踏みしえ宿営地を立てることができた。
 ここにおいて、先に放っていた斥候が報告をもたらした。
 『ローマ軍、アッレティウム近郊に集結』、と。
 ハンニバルが得たのはこの事実だけに留まらない。あたり一帯の近況、至るべき道筋、補給となりうる土地、さらには執政官の抱く戦略のみならず、その気質までも、必要な情報を一手に集め、その信憑性を精査した。
 その地、ファエスラエ(*1)からアッレティウムへ至るエトルリアの平原地帯はイタリアでも有数の穀倉。大地は麦で満ち、家畜が草を食み、人は豊潤を享受する。執政官フラミニウスは前回の執政官時代の実績に驕っている。法を軽んじ、元老院議員の権威に目もくれない。あまつさえ、神にも背を向けている。彼は元々無鉄砲な人間だったが、これまでは幸運の女神を味方につけて政治においても軍事においても成功を掴んできた。これで生来の無鉄砲さがますます増長していったのだ。
 「何者をも恐れぬかの男は、何事に対しても自らの推定でがむしゃらに対処してしまうだろう。やつを誤った道に踏み込ませるのもたやすいことだ」
 彼の隻眼にはフラミニウスの未来が明らかだった。ハンニバルは罠を張り巡らせはじめた。フラミニウスの激情を、煽るのだ。
 ハンニバル軍はフラミニウス軍を左手に見ながらファエスラエへの道を下った。エトルリアの中央を縦断し、あたり一帯を思う様略奪した。フラミニウスが見ている前で豊かな土地を業火で埋め尽くし、思いつく限りの残虐さでもって恣にした。
 
 フラミニウスは敵が黙ってそこにいるだけでも我慢できない性分だ。その彼の眼前で盟邦の所領が荒らされている。カルタゴ人がイタリアの中枢で大きな顔をしてのさばり、さしたる抵抗も受けずにローマの眼前に迫ろうとしている。それなのに、軍議に居並ぶ顔ぶれは皆こぞって、打って出るよりも守勢に回ることを望んでいる。
 「今は同僚執政官であるセルウィリウスが到着するのを待つべきだ。二人の軍隊が揃い、二人の才知、二人の勇気が合わさってからこそ、戦いを行うべきだ。その到着を待つ間は、騎兵および軽装歩兵を出してこの略奪を最小限にとどめよう。敵による略奪の範囲は広範囲にわたっている」
 これを聞いたフラミニウスは怒りを燃え立たせ、その激情にかられるがままに軍議の席を飛び出した。
 「喇叭を吹き鳴らせ! 進軍だ! 武器を取れ! このままおめおめとハンニバルがアッレティウムの市壁に迫ったままになどしておけるか! この我らが土地、我らが神々の守る土地を! ここでじっと手をこまねいていれば、やつは我が手をすり抜けてイタリアを縦断していき、この俺が見ている前で略奪を恣にする。そしてローマの眼前に五体満足でご招待というわけか!? 元老院議員よ、俺をこの場に留めておこうとするならそれでもいいだろう。だが必ずお前らは俺に武器を取ることを請うだろう、かつてカミルス(*2)をウェイイから呼び戻した時のようにな!」
 元老院に対して皮肉交じりに怒りをぶちまけたフラミニウスは軍旗を掲げさせるように命令を下す。そして自らは愛馬に跨った。だが馬が突然倒れてしまい、フラミニウスは頭から投げ出された。その時その場にいたものは皆、これをよからぬ前兆だと捕らえた。しかも、フラミニウスの命令で軍旗をその場から引き抜こうとした旗手がどれほど頑張っても、軍旗は抜けなかったのだ。フラミニウスはこれを伝えた伝令を向いた。
 「貴様、元老院から俺に行動させるなという命令でも受け取ってきたのか? 行け! 恐ろしくて手が震えているとでもいうのなら、穴掘ってでも軍旗を引っこ抜け!」
 軍は、進軍をはじめた。元々フラミニウスの考えに賛同していなかった将校は、この二つの前兆に不吉なものを感じていた。一般兵士はそれとは逆にフラミニウスの威勢に勢いづけられ、意気揚々としていた。兵士にはフラミニウスの威勢は見えていても、その威勢を支える根拠の薄弱なことまでは見えていなかったのだ。
 
 (*1)Faesulae。エトルリアの有力都市。フィレンツェの北東に位置する。現在のFiesole。
 
 (*2)Camillus。マルクス・フリウス・カミルス。共和制初期の英雄。そしりを受けて国外へ亡命するも、カミルス不在のローマをガリア人が急襲。窮地に陥ったローマはカミルスを呼び戻し、それに応えたカミルスはローマを救う…という話があるそうです。
 カミルスについてはDSSSMさんのサイトにおもしろい逸話が載っています。
| livy | 22巻 | 12:34 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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