リウィウスを読もう!

ティトゥス・リウィウスの「ローマ建国以来の歴史」、
完全日本語訳がまだされていないこの史料を読もうという試みです。
自己中心的なことに、スタートは21巻からです。いつになることやら分からないけれど、エンドは30巻です。
要するに、第二次ポエニ戦争限定です。

*はじめてお越しの方は、「はじめに」をご覧ください。
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22-02
ハンニバル、アペニン越えを決行する。
湿地帯ルートを選び、苦しい行軍をする。
ハンニバル、片目を失う。
 ローマでは執政官がこのように神事に忙殺されつつも、新兵徴集を行っていた。

 その頃ハンニバルの元に、もう一人の執政官フラミニウスがアッレティウム(*1)に到着したという知らせが届いた。これを受けたハンニバルは、急ぎ陣を出る。道は二つあった。距離は長いが幅の広い道か。それとも、距離は短いが湿地を通ることになる道か。ハンニバルは、後者を選んだ。
 だがその道は、アルノ川の氾濫で例年以上に湿地が広がっていた。ハンニバルは主戦力であるスペイン人とリビア人に先頭を行かせ、自分の荷物は自分で運ばせた。いざ休息が必要となったときに、物資の不足に苦しめられないようにするためだ。この部隊に続いて、ガリア人部隊が行軍していた。つまり、隊列の中ほどにガリア人がいることになる。ガリア人の後ろには騎兵部隊が続いていた。しんがりは、ハンニバルの弟マゴーネ率いるヌミディア騎兵が務める。マゴーネは隊列が崩れぬように部隊を注視し、特にガリア人の動向には警戒を払っていた。ガリア人はその気質からして、行軍に疲労するとそれ以上は耐え切れずに隊列を崩して逃げてしまうおそれがあったからだ。
 先頭は、案内人に従って行軍していた。道は次第に悪くなる。それでも行軍の足は止まらない。ぬかるみが増し、足はずぶずぶと底なしの泥に飲み込まれ、歩いているのか漂っているのか分からない状態になっても、隊列は軍旗の下、行軍を続けていた。ガリア人はひとたび倒れて泥に飲み込まれると、もう自分たちでは起き上がれなかった。その肉体からは士気が削げ落ち、その心からは希望も泥土と化す。抜け殻のようになった身体をひきずって歩いているものもいたが、倒れ伏したまま動かなくなるものもいた。あたり一面には力尽きて横たわる動物が群れを成していた。
 この苦行に耐え抜くこと4日と3夜、ついにあたりは水に満ち、つかれきった身体を休めるに足る場所すらも水の下。休息と取るには荷物を山と積み上げて、場所を作るしかなかった。水からあがりたければ、そこら中どこにでも漂っている動物の骸が寝床となる。
 
 ハンニバル自身はというと、たった一頭生き残った象(*2)の上にいた。象の高い背高が彼の肉体を水面から遠ざけている。だがそこで彼は眼の病に苛まれていた。きまぐれな風がもたらす春暖と花冷えが元々の原因だった。それに加えて、夜に満ちる湿気、泥混じりの空気、こういったものの積み重ねが、ひどい頭痛と化した。それでも、彼には治療を施すだけの時間を作ることもできなかった。治療を受けられるだけの場所もなかった。こうしてハンニバルは、二つ眼のうちの片方を失ったのだった(*3)。
 
 (*1)Arretium。現代のArezzo。エトルリア地方の町。
 
 (*2)21-58では、厳冬のアペニン越えで「トレッビアの戦いを生き抜いた象もすべて命を落とした」とありますが、どうやら一頭は残っていたようです。伝説によればこの象はハンニバル軍にただ一頭だけ混ざっていたインド象で、名前は「スールー」というそうです。ちなみに他の象はすべて、現代では絶滅した小型のマルミミ象。
 
 (*3)ハンニバルを苛んだ眼の病はトラホームというそうです。
| livy | 22巻 | 19:28 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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