リウィウスを読もう!

ティトゥス・リウィウスの「ローマ建国以来の歴史」、
完全日本語訳がまだされていないこの史料を読もうという試みです。
自己中心的なことに、スタートは21巻からです。いつになることやら分からないけれど、エンドは30巻です。
要するに、第二次ポエニ戦争限定です。

*はじめてお越しの方は、「はじめに」をご覧ください。
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22-01
ハンニバル軍、進軍開始。
ガリア人に命を狙われるハンニバル。
外見を変えてガリア人を欺くハンニバル。
フラミニウスに対する非難、再び。
おかしな予兆、再び。
 時、すでに春。
 ハンニバルは越冬地を出でて、進軍を開始した。先に試みたアペニン越(*1)は厳しい寒さで失敗に終わったが、春になったいまでも危険が伴うことには変わりない。
 ガリア人は元々、戦利品につられて集ってきている。彼らが期待していたのは、他人の地にずけずけと入り込んで思うがままに略奪し、戦利品を満載して故郷へ戻ってくることだった。ところが実際の結果は、期待に程遠い。ガリア人の土地が戦火にさらされ、ローマ軍もカルタゴ軍も、冬になってもその場から動かなかった。ガリア人の敵意は、ローマからハンニバルに向きつつあった。
 ガリアの首領は徒党を組んでハンニバル暗殺を何度か計画したが、その都度、内部争いが妨げとなって計画の実行にまでこぎつけられず、結果的にハンニバルは命を救われたことになった。ガリア人は移り気で、ハンニバルへの忠誠もたちまち陰謀にとって変わる。だがまさにその移り気をして、陰謀をめぐらす仲間内の信頼が破綻するのだった。
 しかしハンニバルはガリア人の裏切りから身を守るための自衛手段も講じていた。衣服を替え、またあるときは髪形も替え、変装で目を欺くことでガリア人の企みから身を守っていた(*2)。とはいえ、ハンニバルが早めに冬営地を発ったことの理由の一つはこのガリア人の陰謀にあった。
 
 一方その頃、ローマは3月15日を迎え、執政官グナエウス・セルウィリウスの任期が始まった。セルウィリウスは慣例に従って議会を設け、ローマの現状について元老院議員と協議した。結果、フラミニウスに対する非難(*3)が再び巻き起こった。
 「我らは二人の執政官を選出したというのに、この場にいるのはたった一人ではないか。あやつにいったい、いかなる権威があるというのか? あやつはいったい、誰の名目の元に行動しているのか? しかるべき権威は、家から、家の守護神から、国家の守護神から、ラテン祭を祝った後に与えられる。アルバ山地で供儀を滞りなく済ませ、カピトリーノの神殿で静粛なる誓いを立てねばならない。単なる一私人には執政官たるべき権威は与えるにしかず、義務を怠る執政官も一私人と同様、権威を与えるに値しない。よその土地で同じ儀式をやったとて、認めるわけにはいかん」
 
 この頃、各地より奇妙な出来事の報告が届いてきていた。これが広まったおかげで、町中はまたしても(*4)恐怖に包まれている。シチリアでは兵士の持つ矢が勝手に燃えたという。サルディニアでも同じように、騎兵の一人が城壁の見回り中、その手にかかげていた杖が勝手に燃えた。沿岸は原因不明の炎でまばゆく輝いていた。プラエネステ(*5)では、盾が二つ、血を流したという。アルピ(*6)では天から真っ赤に焼けた石が降ってきた。カペナ(*7)では天には盾が窺え、太陽は月と戦っていた。日中に月が二つものぼってきたところもあった。カエレ(*8)の水には血が混じっていた。ヘラクレスの泉から湧き出る水にも、血潮が混じっていたという。アンティウム地方(*9)では、収穫中の篭に血まみれの麦穂が転がり落ちてきたという。ファレリイ(*10)では、大地に峡谷が刻まれるように、天に裂け目が刻まれているのが目撃された。その裂け目ではまばゆい光が輝いていた。予言を記した石版が知らないうちに縮んでいた。そのうちの一つにはこう記されていた。「マルスはかの槍を揺り動かす」。同じ頃、アッピア街道のローマに近いところで、マルス神像が狼の彫像と向かい合わせで並んでいたが、そのマルス神像が汗を流したという。カプア(*11)では、太陽が炎に包まれ、月が降りしきる雨のごとくに堕ちたという。
 こういったことが続くと、今度は些細なことでも何かよからぬことの前兆ではないかとみなされてしまう。ある人の飼っていたヤギに羊毛が生えたとか。雌鳥が気づくと雄鶏になっていたとか。逆に雄鶏が雌鳥になったとか(*12)。
 こういった変事は元老院にも直接報告されてきた。執政官はこの件を協議し、こういった前兆にはすべてしかるべき処置を行うことが決まった。ある事項に対しては成獣の犠牲を、ある事項に対してはまだ乳離れもしていな犠牲を、といったように状況に応じて適切な供儀が行われた。またすべての神殿で3日間の祭事が行われることも決まった。
 そのほかにも、対策委員会が予言の書を調べて、どういった措置をおこなえばよいかを調べていた。それによると、黄金約20キロで稲妻を模し、ユピテル神に捧げることが決まった。また銀でつくった捧げものがユノーとミネルウァに捧げられる。アウェンティーノのユノー・レギーナ女神と、ラヌウィウムのユノー・ソスピタ女神(*13)には、成獣の犠牲が捧げられた。女性陣は寄付を集めて、アウェンティーノのユノー・レギーナ女神の神殿に奉じ、さらに特別な神事も執り行われた。さらに、解放奴隷の女性もフェロニア神殿(*14)に寄付をした。これがすべて済むと、対策委員会はアルデア(*15)の広場で供儀を執り行った。最後に、この頃12月を迎えていたので、ローマのサトゥルヌス神殿でも儀式が行われた。元老院が場所を用意して、食事も振舞われた。サトゥルニア祭(*16)が始まるという布告が町中を駆け巡り、一昼夜の間市民はこの祝祭日を享受して過ごした。
 
 (*1)厳冬のアペニン越については、21-58を参照。
 
 (*2)ポリュビオスによれば、『あるときは若者、あるときは老人』に見えるような変装で、ガリア人はおろか昔からの仲間も彼とは分からなかったぐらいだそうです。ハンニバル、変装の名人でもあったんですか。
 
 (*3)フラミニウスに対する非難については、21-63参照。そこで述べられている通り、フラミニウスがさっさと首都を出て行ってしまったため、首都で任期を開始したのはセルウィリウスだけでした。
 
 (*4)おかしな前兆については、21-62にも記述があります。今回は、前回よりも広範囲でおかしな出来事が起こっているようですね。
 
 (*5)Plaeneste。現在のパレストリーナ。ラティーナ街道沿いにある、ラティウム地方の町。名産物は胡桃で、フォルトゥーナ神殿が有名。
 
 (*6)Arpi。アプーリア地方の町。

 (*7)Capena。エトルリア地方の町。現在のCivitucla。
 
 (*8)Caere。21-62に引き続き、今回も大変ですね…。

 (*9)Antium。ラティウム地方の沿岸一帯。現在のPorto d'Anzo。
 
 (*10)Falerii。エトルリア地方のうち、ファリスキ(Farisci)周辺の中心都市。エミリア街道沿いにある。
 
 (*11)Capua。カンパーニア地方の主要都市。アッピア街道沿いにある。第二次ポエニ戦争中は特に重要な舞台となった。

 (*12)些細なこととは思えませんが。
 
 (*13)Lanuvium。こちらも21-62で出てきました。
 
 (*14)Feronia女神。サビーニ人起源の神? その守護するものは、自由・商業・大地など諸説あり。ここで解放奴隷が寄付をしていることから、ここでは自由の女神ととられているのかもしれない。
 
 (*15)Ardea。ローマから南東30キロ。海まで5キロと沿岸沿いにある町。元々はギリシア人起源の町だった。
 
 (*16)Saturnalia。ラティウム地方の主神であるサトゥルヌス神のお祭。12月の終わりに行われる。その年の農作期の終わりに収穫を祝うためのお祭で、ラティウム地方で古くから行われていた重要なお祭。この期間中は、学校も仕事も奴隷たちも、とにかく何もかもがお休みになる。夢のような祭だ…。
 
 (**)ところで、3月15日に執政官が仕事をはじめたのに、いきなり12月にさかのぼって変事が書かれているのが気になります。私、どっか何か間違ってますか?
| livy | 22巻 | 17:09 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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